琵琶湖の豊かな水に育まれた暮らし

滋賀県といえば、県の面積の約6分の1を占める日本最大の湖・琵琶湖。満々と水をたたえる湖と周りを囲む山々が、四季折々に風光明媚な眺めを織りなします。
この土地に暮らす人々は、古くから琵琶湖の水を生活のなかに取り入れてきました。湖の周囲では、弥生時代から水田での稲作が行われていたことがわかっています。今でも「近畿の米倉」といわれるほど米づくりが盛ん。「近江米」として、さまざまな品種のうるち米・酒米・もち米が育てられています。映像のなかにも、青々とした田園の只中をリアライズトレーラーが走っていく様子を収めました。

南北に長く伸びる琵琶湖には、畿内と北国をつなぐ交通の要としての側面もありました。軍事の要衝でもあり、織田信長は湖を囲むように城を築き、湖上の交通・流通を支配したと考えられています。
湖の周囲は約200kmもありますが、1964年には琵琶湖大橋が開通し、湖東・湖西が直結。利便性が向上したのはもちろんのこと、なだらかなアーチを描く白い橋は周囲の自然に溶け込み、琵琶湖の名所にもなっています。

湖辺の米づくりと深く結びついた伝統食「鮒ずし」

琵琶湖が現在の形になったのは、約40万年前といわれています。そのため水生生物のなかには、長い時間をかけて独自の進化を遂げた固有種も。琵琶湖の伝統食「鮒ずし」の材料であるニゴロブナも、その一種です。
鮒ずしにもっとも適しているのは、3〜4月の卵を抱えたメス。ニゴロブナは通常、湖の深いところに生息していますが、産卵期には水温の高い浅瀬や湖周辺の水田にまでやってきます。琵琶湖の水を利用した米づくりに、深い関わりをもった魚なのです。
水揚げされたニゴロブナはすぐに内蔵を抜き、塩漬けにされます。夏が来たら塩を洗い流して干し、炊いたご飯で漬け込み、そのまま数ヶ月間発酵。お正月頃にはできあがります。
撮影は、1784年創業の老舗である鮒寿し 魚治で行いました。昔ながらの木桶で鮒ずしを漬け込み、通常より長く2年間熟成させています。当主によると、鮒ずしの味の決め手となるのは、それぞれのお店や家庭に息づく乳酸菌。余計な菌を持ち込んで味を変えてしまわないように、漬け込んだ桶が並ぶ蔵には、当主しか足を踏み入れないそう。発酵の過程を、たった一人で見守っています。